邦画はホラー映画以外はほぼ、ロードショーを観に行かない!と決めているためにこちらもCS放送のものを観たが、個人的な感想は、随所随所に味わいどころがあってなかなかよくできており、繰り返し見たいと思う良作かもしれないと思った。
心の奥で現実と虚構のはざまを行き来する、主人公滝沢馬琴(役所広司)。その相棒として、小気味の良いテンポを加えてくれる葛飾北斎(内野聖陽)。現実世界で奥さんにののしられたり体の虚弱な息子を抱えたりとうまくいかない現実世界で暮らしながらも、彼らは虚構を貫く意味を語ってくる。
武士・渡邊崋山が馬琴の居室を訪問し、虚であっても心の中でそれを貫けば、その人の人生は実となるのである、的なことを述べたが、非常に良いことを言っていると思う。
近年は量子物理学の解明も、最近明らかになる部分があるようで、観測者の視点によって、世界も違って見える(不思議なことだが、量子の実験によって証明されているようである)、ということも少し反映されていないだろうか。
それはさておき、芝居小屋で観劇をした馬琴と北斎が、奈落に降りて行ったときにたまたま舞台の修繕?をしていた鶴屋南北に出会った。さかさまになって上階から顔をのぞかせた南北は、暗い光の中で、さながらオバケのようにも見えた。忠臣蔵と四谷怪談を表裏として抱き合わせで上演しているのだが、実は忠臣蔵は虚構で、四谷怪談こそが事実なのかもしれないよ・・、と話しかけるその姿はいよいよ不気味で怖い感じだった。
自分の書いていることは勧善懲悪であり、虚構であるが、果たしてそれでいいのだろうかとふと悩み出す馬琴だが、周囲は人々が暮らすうえで支えとなるので、必要な虚構であると励ます。
四谷怪談が怖いと感じるなら、それは真実だからである、という南北の不思議な発言。心が何かを感じるストーリーは虚構の枠を超えて、心の中では真実、ととらえるといいのだろうか。
そんな中、八犬伝のストーリーも良く描かれている。シノがムラサメを領主に献上したところ、偽物だと非難されて襲われ、反撃するシーンやアクション、美しい巫女姿に扮した犬坂が、射るような目つきで鈴をならしながら迫ってくるシーンなど、演出的にもエンタメとして楽しめる場面がある。
八犬伝そのものばかりを追いかけると意外に内容は微妙なのだろうか、薬師丸ひろ子の里見八犬伝はつけっぱなしで流していたが、ほとんどまともに見ていないまま流してしまった。アイドル女優だった薬師丸ひろ子ばかりがクローズアップされている感がいまいちだったのか、とにかくちゃんと見る気が起きず、そのままである。
こちらの八犬伝も邦画ということで同じ扱いをしたが、なぜか途中で気になって、まじめにみることにしたのでやはり、俳優陣や演出が良かったのか。
最後は馬琴がこの世を去る?的なエンディングとなり、八犬伝の剣士たちにかこまれながらにこやかに光とともに消えていくシーンが、良い感じであった。