たった一人の男が、33年の年月をかけ、水、石灰を練り上げ、ハリガネや貝、拾ってきた石、いろんな素材を混ぜて手作りで理想宮を造った。正面の三体の像は、ずいぶん昔から見た記憶があったが、それだけ有名な建築だったのだろう。 |
人間関係に不器用で寡黙、毎日黙々と仕事をしていた郵便配達員が、ある日、自分の心に浮かび上がってきた理想宮を創ることを思い立った。
またもや発達障害の話をしてしまうが、おそらくこの人はアスペルガー症であり、あれこれと手を回したり気を回すことが困難な代わりに、一つ思い立ったことは、誰になんと言われようが成し遂げようとする、周りの環境に左右されることなく、気違いと言われようが変わることのできない遂行力をもった人だと思った。
周囲の気持ちをおもんばかったり、協調したり、悪いからと自分のやり方を見直したり、融通の利いた行動、それができるのは普通の人である。が、それ故に、自分がこうだと思って最後までやり抜こうとする独自の道は築きにくい。主人公は周りに合わせることができないからこそ、自分の理想宮を最後まで造り抜くことができたのだと思う。
娘が抱っこしてほしいと言っても応えられなかったり、妻のリアクションを即受け入れられずに困惑してしまったり、多くの人の気持ちをくむ言動がことごとくできなかったりしている。(他者との接触が苦手で今風に言うと、いわゆるコミュ障、コミュニケーション障害のことである。)
それでもこの人が恵まれていたと思えたのは、理解者となってくれる妻を得られ、若くして亡くなった娘がくれた原動力を胸に建築をすすめ、生き別れた息子も近所に戻ってきて孫たちにも恵まれたからである。奇人変人ではあったものの、愛情というものが彼の心の中にきちんとあって、それを家族が理解できたということは、とても良かったと思う。
狭い日本と違って100年以上前のフランス、土地もいっぱいありそうなので、敷地があれば好きなものも建てられそうだったのがうらやましい。現代の日本だと、生活圏の土地はせまく、また、建築基準法があったりで、違法建築として取り締まられてしまいそうだから、とてもこんなものは建てられないと、ロマンのない現実的なことを考えてしまう。
が、100年以上前に建てられたこの建築物はとても素晴らしい様子なので、いつの日にか、見物に行かれたら良いと思う。