旦那とはラブラブで、何の不足もない平穏な毎日、素敵なマイホームと一見申し分のないような生活を送っている主人公と周辺住民。ところが、時折フラッシュバックする断片的な記憶、何かがおかしいと相談を持ち掛けていた友人の自殺など、主人公女性も自分のいる世界に疑問を持つようになる。
あるとき、飛行機事故を見かけて「本部」を訪れたことから主人公の猜疑心はどんどん深まっていき、そこが作られたバーチャル世界だということにたどり着いた。
それをわかっていて世界にとどまる知人もいた。現実には子供はいないが、ここにいればそれがいて、守るべきもののために私は生きていける、といったことを言っていた。そして彼女は、主人公は行動を起こしてしまった以上、ここにいるとつかまるから逃げなさいと助言をくれた。
現実では職に困っていた恋人が、自分の許可も得ずに勝手に自分をバーチャル世界に連れてきてしまったことを知った。夫婦仲の良さ・すばらしい家、一見理想的な世界でのことが(毎日同じループなのを見ていると、なぜか見ている方がうんざりしてくる)、自分勝手な恋人によるものだと知ったとたん、身の毛もよだつような嫌悪感に変わってしまった。
バーチャルリアルティ空間の普及が予想される昨今であるが、その中で描かれた映画である。 作られた空間にだまされ、現実の記憶を失い、何者かに支配されながらも何かがおかしいと感じながら生き、逃げ場もない場所。映画「マトリックス」的なエッセンスも感じさせられる。日本のアニメで言うと、すでに40年も前のものだが、「うる星やつら」の映画「ビューティフル・ドリーマー」あたりだろうか。
何かがおかしい、ということに気づきさえしなければ、閉鎖空間の中ではあっても、これほどまで苦しむことはなかっただろう。が、気づいてしまったからにはこれに抗い、戦わなければいけないという苦しさ。これは一種のディストピアストーリーだとも思える。
周りに自分の考えを全否定された挙句、耐えきれなくなって自殺する人。気づいてはいても、あえてそれを受け入れ、安住する人。主人公の場合は、執拗に自分を阻止する旦那を結果的に殺害し(現実世界でも死亡するようである)、本当の世界にどうにか逃げ戻る、というラストだった。どれも自分の行った選択であり、それによって大きく結果も変わってきている。が、逃げ戻った世界は、本当の現実世界だっただろうか。
この現実世界も、仮想空間であるという説(二重スリットの実験より)もあるようである。だから、現実と思われている世界も実は、定まった形があるのではなく、みんなのとらえ方や気持ちによって、あり方が変化しているのかもしれない、という話である。