2021年3月25日木曜日

疑惑(1982年 日本)

 

桃井かおりと岩下志麻の対決が見られる。

ずいぶん前に、こちらの映画をTVでやっていただろうか、ほぼ最後の方の映像の記憶しかないが、ワインのぶっかけ合いシーンと、最後のラストシーン、それがかなり印象に残ってしまっていて、いつか見ようと思っていた。

レンタルDVDのHPからだといつも貸し出し中になっていて(在庫がたんに無いだけでは?とうたぐってみたものの、さっぱり借りられず)、Youtubeで映画購入が可能な時代に入っていたのと、TVのBluetooth機能だろうか、YoutubeをTV画面で見られることから、視聴購入してTVで観ることができた。

九州で起きた「三億円保険金事件」をヒントに制作されたという映画である。球磨子=クマコ(桃井)の腐れ縁の元恋人役に、若かりしときの鹿賀丈史、新聞社の記者にやはり若かりし柄本明、今は千葉県知事となった森田健作などが出演している。

車が水中に転落し、資産家の夫は死亡、妻であるクマコのみが生き残った。クマコは暴行・傷害・恐喝・詐欺の前科4犯という曲者で、見たとおりのずうずうしさ、品のなさ、ヒステリックさ、「毒婦」そのものだった。当然、3億の保険金目当ての殺人だと疑われ、おそらく観客の心情も、映画内の世論やマスコミ、たぶん警察も、クマコに対して憎らしい、有罪にしてほしい、という気持ちで一致しそうである。

クマコが元恋人に不利な証言をされて追いつめられるものの、弁護士の律子(岩下)がその証言をひっくり返させたり、遺族の息子から父親が無理心中を考えていたことなどを引き出し、殺人ではないことを主張し、うまくクマコの無罪を勝ち取った。やり手の弁護士だが、観客としてはかなり残念である。

が、律子は仕事では敏腕弁護士として成功しているものの、プライベートではその反対で、あまりうまくいっていない。その無情さも描かれていて、ストーリーに深みを出している。

律子は離婚しており、元夫に引き取られた自分の子供に法律上、一か月に一度、会わせてもらうという取り決めをしていた。が、新しい奥さんに、もう子供は作らずこの子だけを本当の我が子として育てたい、もう会いに来ないでほしいと頭を下げられる。

 また、保険契約から1年以内の自殺の場合は保険金が下りないが、クマコはそれを不服とし、店に来た律子に、どうにか保険金が下りないかと相談を持ち掛けてきた。自身に都合の良いことばかり主張し、死んだ夫の命も軽んじるクマコを冷ややかに見つめる律子。(クール系美人の岩下さんは、冷徹な弁護士役にぴったりである)みんなあんたのことが大嫌いだよ、と言ってクマコがその純白スーツに、ボトルの赤ワインをドクドク、とかけていく。それに応戦し、律子もクマコの顔面にグラスワインをぶちまける。プライベートではまさに火花を散らす犬猿の仲だった。こんな女を助けるのが仕事だとは、弁護士も本当に大変であると思わされる。

桃井さんのあのけだるいしゃべり方も、まさにクマコの役柄にぴたりとはまって、「ビッチ、ズベ公、クズ」などのひどい言葉がぴったりなくらいの憎らしさを出すことに、天才的なものを感じる。ラストシーン、移動中の車窓に群がる見物人(事件がメディアですっかり有名になった)をしり目に、くわえタバコで(現在は車内禁煙)ニヤリと笑う姿。それが印象的すぎる。実はクマコは夫を殺しており、弁護士をだまして無罪となっているのではないか?と思うくらいの悪の笑みに見えてしまう。

邦画はあまり見ないが、印象に残る作品はやはり、感情移入力があり、すごいものがある。